ソーシャルビジネス事例⑲ Common Ground(コモングラウンド) まず住まわせる(Housing First)

ソーシャルビジネス
  • まずは住む場所がないとダメ!まず住まわせる(Housing First)

Common Ground(コモングラウンド)はホームレスの人々に必要なのは、「ホーム」である、というものすごく全うな考えをビジネスとして体現した事例です。

 

簡単に現在の仕組みの概要は、

 

①廃墟となっているようなそのままでは犯罪の温床になってしまうような建物を買い取ってリノベーションする

 

②ホームレスの方々に貸し出す。家賃は収入の3分の1

 

③建物はただの住居ではなくて様々なコミュニティ機能を有しており、自立できる仕組みになっている

 

なんだかんだと御託を並べた自己満足な支援事業ではなくて、ホームレスの人にホームを提供することから始めるっていうのは本当にドストレートで、他のホームレス支援事業をやっている方々も頭をガツンと殴られたような衝撃を受ける事業ではないでしょうか?

 

 

  • ホームレス大国であるアメリカ

アメリカ政府が発表している全米のホームレス数は55万4000人(米住宅都市開発省調べ、2017年時点)で、日本の約5000人に対して約100倍以上にもおよぶ数となっています(もちろん日本でもネカフェ難民など合わせるともっと深刻な数字)。そのうち路上生活者は19万3000人と2年前から9%も増加していて、今後も手立てが立っていないのが現状です。

ホームレス支援のNGO団体によると、「同省が把握している数値には、住宅がなくモーテルなどで共同生活を送っている数百万人規模の米国人を除外している」という指摘もあります。つまり、アメリカの実質のホームレス数はその数倍にのぼるいうわけです。

 

また、びっくりするのが、アメリカはホームレス状態の学生がめちゃくちゃ沢山いるということです。

シカゴ大学が発表した報告書では、ホームレス状態にある学生が全米で少なくとも420万人もいるそうです。そのうち13~17歳は70万人、18~25歳が350万人というまさに衝撃的な数値が出ています。

 

また、約46万人の学生を擁するカリフォルニア州立大学(全米最大)が委託した調査によると、同大学では10人に1人にあたる約5万人の学生が特定の住所を持たないホームレス状態にあり、さらに4~5人に1人にあたる10万人が食べ物の確保ができていないという統計が出ました。ちょっと想像がつかないですよね?大学生の10人に1人が住むところがなくて、10人に2人が食べ物に困っている状態なわけです。

これは学歴によって格差が半端ではないアメリカで、何としても大学に行く人たちは高利子の学生ローンを組むしかなくて、その巨額の返済金がアルバイトでも追い付かないため生活費が枯渇してしまうという背景があるようです。

そして、その多くの学生が多くの借金を抱えたまま社会に放り出されることになります。

その貧困状態から薬物や暴力への転落が起こり、様々な社会問題を複合的に生み出しているのが今のアメリカの一側面です。

 

 

  • あまり意味を成さないホームレス支援「階段式(Staircase)」

従来のホームレス対策は「階段式(Staircase)」と言われ、「自分で家を借りること」を最終目標にすることで、日々の様々な諸問題を一つ一つ解決してくことから始まります。僕はこういった支援は本当に自己満足的な支援だなぁと思ってしまう方です。

ホームレスの人々はそもそもその環境が大変劣悪なものになっていたり、自身の精神状態がよくない(うつ病・PTSD・様々な依存症等)のため、環境が変わらなければそもそも抜け出すことは不可能なんですよね。つまり、「優しくない独りよがりな支援」なわけです。

これは自己責任論ではなくて、行動科学的にどうしようもないことなんだと思います。100人がこういった状況に置かれたら、99人はそういった状態になってしまうんですからね。

 

 

  • 「段階」ではなくてまず「環境」を変える、住む場所が重要

考えれば誰でもわかりますが、「住む場所」が無いっていうのは本当につらいと思います。人間は社会性に生き物ですから、「住む場所」がないことってどんどん自己否定につながってしまうと僕は思うんですね。本当にこのCommon Ground(コモングラウンド)を始めたロザンヌ・ハガティ(Rosanne Haggerty)さんはすごいと思います。以下、ロザンヌさんについての記事です。

 

“ロザンヌ・ハガティは、1982年マサチューセッツ州の名門アマースト大学を主席で卒業した後、ニューヨーク有数の繁華街であるタイムズ・スクエア近くにある教会でボランティアとして働いた。そこに1年間住みながら、家庭内暴力などの理由で住む家を失った、13歳から24歳の若者のカウンセリングを担当したという。

ロザンヌは、「お恵み」の食事で日々をしのぐホームレスの人々と生活をともにしながら、この状況をどうにか変えられないものかと、考え始めた。

・・・・・・

90年のある日、ロザンヌは当時4歳の息子の手を引いて、43丁目と8番街の角にあるタイムズ・スクエア・ホテルの前を通りかかった。20世紀初めに建てられた652室のこの瀟酒な建物も、かつては芸能人やジャーナリストが好んで泊まる中流ホテルだったが、地域の悪化とともに閉鎖された後、ホームレスのシェルターとなっていた。

その日、ロザンヌはこのうす汚く物騒な建物の中に息子の手を握りしめながらおそるおそる足を踏み入れた。思わず、体臭と腐ったゴミの混じり合ったような悪臭にむせんだ。薄暗いロビーの床には、こわれたソファやゴミが散在し、虚ろな目をした老人が数人、壁にもたれかかっていた。小さな子供たちがそこら中を走りまわり、戸口には警備員がひとり、無表情に立っていた。

「当時、ニューヨークの治安は最悪で町中が不穏な空気に覆われていたわね。市内だけでホームレス人口は約7万人。ますます増えているという状況だった。この差し迫った状況でタイムズ・スクエア・ホテルを見たとき、ここを利用してホームレスの住居ができないかってひらめいたの」

*渡邊奈々『チェンジメーカー』日経BP社 2005年”

ソーシャルビジネスを始める上で、特に必要な要素が「ひらめいた」をすぐに「やっちゃう」という行動力だけだと思います。ロザンヌさんはその後すぐにその年(1990年)にNPO Common Ground(コモングラウンド)を結成し(ちなみにこのとき28歳)、様々な専門家の意見と対立しながらも、いろいろな人々からの支援を受けてついにニューヨーク市長を説得し、1994年にサポーティヴ住宅、「ザ・タイムズ・スクエア」がオープンさせました。その後他にも施設をオープンし、2018年現在薬4000戸のサポーティブ住宅が運営されています。

 

 

  • 費用対効果も抜群のモデル

Common Ground(コモングラウンド)のような構想を聞くと、その費用って結構高いのではないかと思いますが、Common Ground(コモングラウンド)のサポーティブ住宅は$36/泊、市のシェルターベッドが$54/泊よりもだいぶ安価ですし、これが病院のベッド$1,185/泊と比べても格段に安いことがわかります。

 

低所得者層の更生目的としての事業のため、資金調達には行政の協力が不可欠だと思われます(具体的数字はちょっとみつかりませんでしたが)。

行政はこの取組に積極的に協力していますが、「ただ良いことだから」ということでは国や行政、また「人間そのもの」は動きませんよね?周りが協力的な理由の一つが、費用対効果です。

問題を抱えるホームレスを通常の方法で支援する場合の行政支出は年間56,350ドルです。一方Common Ground(コモングラウンド)の場合は24,190ドルに抑えることができます。つまり60%ほど安くすることができるため、行政にとっても良い事ずくめの事業のため支援が集まります。

こういったお金を出させる場合、出す側に明確な数字としてのメリットを提示することはソーシャルビジネスにおいても最も重要なことの一つだと思います。

 

 

  • 一つの更生コミュニティとしての機能

Common Ground(コモングラウンド)の部屋は大変清潔でシンプルな構造(1K)で、洗濯機が必ずついています。洗濯機がついているので、おのずと清潔な生活になりますよね、ここらへんしっかりしたシステムだなと思います。まず家があり、そして清潔になることで人としての尊厳のようなもの、自己肯定感がまず生まれやすくしているのだと思います。

建物内では、自立していくためにたくさんの他団体の協力を得ていて、メンタルケア/ヘルスケアを提供しており、相談にすぐに対応できる体制になっています。また、共有スペースとしてリビングやジム、パソコン室もおかれていて、さらにはパソコン教室や職業訓練活動なども開催されており、総合的に社会復帰を支援する仕組みが整っています。

 

社会復帰が近づいてきた入居者に対しては実際に訓練の場も提供しています。日本に再上陸してCMもばんばん流れているアイスクリーム屋さん「Ben & Jerry’s」の一部店舗のフランチャイズ権を譲り受け、その店舗をホームレスの職業訓練として活かすなどの取り組みも行っています。すごくないですか?

 

Common Ground(コモングラウンド)こうした仕組みや取り組みによって、今までにのべ7000人以上のホームレスの方々が社会復帰できたとのこと。

 

 

  • 日本での展望はないのか?

(写真:以前も紹介したホームドアさんの活動より)

日本はキリスト教文化ではないので、根本的に寄付が難しいと言われています。また、「村八分」という言葉もあるように、その施設自体がホームレスたちの居場所という定義を間違った解釈で行われてしまうと「こわい」「危ない」などの誤解を受けてその施設自体が世間に受け入れられない可能性もあります。

ですが、日本は一旦受け入れたものに対していは非常に優しい助け合いの国民性も持っています。僕は個人的にはおもいっきりオシャレで洗練されたデザイン性のある場所にするべきだと思っていて、ホームレスの方がメインでありながら多種多様な人々が入居できるシステムをもたせるべきだと思います。そうした方がもともとのコミュニティ形成からの社会復帰という面においてもより有効であり、世間一般へのホームレスの見方や距離感が変化すると考えるからです。どちらかというと生活保護を本来うけるはずの母子家庭の方々などに焦点を絞りこの事業を展開しても良いかと思います。

そもそもの問題点として地価が高いという点もありますが、地方創生を謳う昨今必ずしも都心で行う必要もないと思いますね。

また、今回のこのCommon Ground(コモングラウンド)の事例に、google等が検討している無料ハウスなどの事業が提携し、各種企業がマーケティング等でもスポンサーになってくれるなどのマッチングが行われれば、よりWINをたくさん生み出すことができると思います。社会復帰という面だけでなく、様々な経験をしている方々が集まるはずなので、そこで事業アイデアを募集し、起業に結び付け、さらにそこで雇用を生んで事例を作っていくという風にもっていけたらなお面白いと思います。僕自身この事業に関しては興味があるのでどこかの早い段階で手を挙げてみようかなとも思っています。

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